予防を始めよう

大切な歯を守るために

歯医者で行う「定期メインテナンス」は、むし歯や歯周病の再発を徹底的に防ぎ、口腔内の健康な状態を長期的に維持・コントロールするための重要な専門処置です。毎日の自宅での歯磨き(セルフケア)だけでは取り除けない頑固な汚れや細菌の膜(バイオフィルム)をプロの技術で除去し、病気のリスクを大幅に低減します。これにより、自分の歯をできるだけ長く守り、全身の健康にも良い影響を与えることができます。定期メインテナンスを継続的に受けることで、むし歯や歯周病の再発リスクを最小限に抑え、80歳になっても多くの自分の歯を残す「8020」を実現しやすくなります。痛みが出てから治療するのではなく、無症状のうちに予防を習慣化することが、長期的な口腔健康と快適な生活の鍵です。

予防で行うこと

定期メインテナンス

定期メインテナンスでは、主に以下の内容を行います。まず、患者さんのお口の状態を詳しくチェックします。むし歯の有無や進行状況、歯周ポケットの深さ測定、歯肉の炎症や出血の確認、磨き残しの検査などを行い、潜在的な問題を早期に発見します。また、必要に応じてレントゲン撮影や唾液検査を実施し、個人のリスクを評価します。

プロによるクリーニング

プロフェッショナルなクリーニングとしてPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)を行います。これは、専用の器具と研磨剤を使って、歯の表面や歯間、歯周ポケット内の歯垢・歯石・バイオフィルムを徹底的に除去する処置です。日常のブラッシングでは落とせない着色汚れ(ステイン)も取り除き、歯の表面をツルツルに仕上げることで、新たな汚れの付着を防ぎます。さらに、フッ素塗布を追加することで歯質を強化し、むし歯の発生を抑制します。

プロによる指導

また、担当の歯科衛生士が患者さん一人ひとりの歯磨き習慣をチェックし、正しいブラッシング方法やデンタルフロス・歯間ブラシの使い方を指導します。これにより、自宅でのセルフケアの質を向上させ、予防効果をさらに高めます。メインテナンスの間隔は個人のお口の状態やリスクに応じて異なりますが、一般的に3~6ヶ月ごとが推奨され、重度の歯周病歴がある場合や磨き残しが多い場合は1~3ヶ月と短くなることもあります。

定期メインテナンスの間隔

治療が終了した後(特に悪いところがなく、お口の中が健康な状態の方でも)、個人差はありますが、「3~6ヶ月ごとに」定期的に歯科医院での受診(定期検診や専門的なメインテナンス)をお勧めしています。

この間隔は、お口の状態や歯周病のリスク、生活習慣などによって調整されますが、継続的なケアが歯の長期的な健康を守る鍵となります。

放置すると元に戻る!?

歯周病は、主に細菌の感染によって引き起こされる病気です。歯と歯肉の境目(歯周ポケット)に付着したプラーク(歯垢)を長期間放置すると、そこに潜む細菌が急速に増殖し、悪玉細菌の割合が高まってしまいます。その結果、歯肉の炎症が進行し、歯を支える骨が溶かされ、歯周病が再発・悪化してしまうのです。一度治療で改善したとしても、細菌は日常的にお口の中に存在するため、放置すればすぐに元の状態に戻ってしまうリスクが高いのが特徴です。

一定期間ごとのメインテナンスが大切

したがって、一定期間ごとに歯科医院でプラークや硬くなった歯石を徹底的に除去し、細菌の増殖を抑え続けることが、歯周病の予防に直結します。ご自宅での毎日のブラッシングやフロスなどのセルフケアは非常に大切ですが、どうしても磨き残しが出てしまったり、歯石のように硬くなってしまった汚れは自分では取り除けません。特に歯周ポケットの奥や歯の裏側、歯並びの複雑な部分などはプロの手によるクリーニングが必要です。

歯科医院での定期メインテナンスでは、専門的な器具を使ってこれらの汚れを安全に除去し、歯の表面を滑らかに仕上げることで新たなプラークの付着を防ぎます。また、早期に小さな問題を発見できれば、大きな治療を避けることも可能です。このような継続的な予防アプローチにより、自分の歯を長く健康に保ち、快適な食生活や全身の健康維持につながります。

定期メインテナンスの効果

スウェーデンの予防歯科の先駆者であるペール・アクセルソン博士と、歯科衛生士のブリギッタ・ニーストレン女史によって、1970年代から30年にわたって行われた長期予防臨床研究は、世界的に有名なエビデンスとして知られています。この研究では、定期的な専門的メインテナンスを継続的に受けた患者群を長期間追跡した結果、驚くべきことに97.7%の確率で歯が守られたことが科学的に立証されました。

つまり、ほぼすべての歯をむし歯や歯周病から守り抜くことが可能であることが明らかになったのです。
この研究に参加した患者たちは、数か月に一度の定期検診とプロフェッショナルなクリーニング(PMTC)を欠かさず受け、担当衛生士による個別指導のもとで自宅ケアも徹底していました。その結果、30年間の観察期間終了時に、わずかな歯の喪失があったケースでも、その主な原因は外傷による歯や根の破折(ひび割れや折れ)であり、むし歯や歯周病が原因で歯を失った人は一人もいませんでした。これは、適切な予防プログラムを継続すれば、加齢による歯の喪失をほぼゼロに近づけられることを示す、極めて強力な証拠です。
このスウェーデンの研究成果は、予防歯科の重要性を世界に広め、日本でも「8020運動」などの取り組みに大きな影響を与えています。かつて「歳をとれば歯は失われるもの」と諦められていた時代から、今では「予防次第で自分の歯を一生守れる」という希望が現実のものとなっています。